■ 公共バスとバス停を利用した街中でのリレー性能検証(ソナエRING実証実験)
弊社は、『いつもの暮らしに備えをプラスして安心な社会をつくる』がコンセプトの「+ソナエ・プロジェクト」に参加しています。その中の取り組みのひとつである「ソナエRING」では、街中に存在する様々な都市アセットにスマホdeリレー機能をアドオンしていくことで『災害による通信途絶にも強く普段の生活情報やお役立ち情報の流通にも利用できる新しいまち情報インフラ』の構築を目指しています。
このたび、株式会社NEXT VISION様のもと、相鉄ホールディングス株式会社様、相鉄バス株式会社様の協力を得て、営業運行中の公共バス設備(バスターミナル、バス車両、バス停)にスマホdeリレー機能をアドオンした際に、「まち情報インフラ」としてどの程度の情報共有性能が発揮できるのかについて検証実験を行いました。以下ではその検証実験の様子と結果をご紹介します。
■実験概要
【参考】株式会社NEXT VISION様による本実験に関するプレスリリース
期間 :
2022年3月7日(月)~ 2022年3月11日(金)
会場 :
【バスターミナル】 二俣川駅南口バスターミナルおよび鶴ヶ峰駅バスターミナル
【バス車両・路線】 相鉄バス 旭1路線 二俣川駅南口・鶴ヶ峰駅間(1日当たり7:49~16:45までの4往復分が対象)
【バス停】 左近山第3(のりばA)、左近山第5(のりばA)、左近山第6(のりばA)
※地図提供:Google
検証内容:
実際に街中で営業稼働中のバスターミナル・バス車両・バス停にスマホdeリレー通信を行うアプリをインストールしたタブレット端末を設置し、バスターミナルに用意したサーバ上の配信データをバス車両を介したすれ違い通信によって運行路線上の各バス停へ配信するスマホdeリレー情報配信基盤を構築。配信データとして文字と写真で構成したサイズの異なる複数のHTMLデータ(0.5KB~300KB、本記事末尾に例示)を用意し、どのくらいの情報量がどのくらいの確率で共有可能であるかを検証した。また、電力供給の見込めないバス停への配備も含めた運用シナリオが現実的かどうかを探るため、バス停配置端末の電力消費量についても検証した。
協力体制:
【実験実施代表】 株式会社NEXT VISION
【バスインフラ提供】 相鉄ホールディングス株式会社、相鉄バス株式会社
【実証実験コーディネート】株式会社電通
【制作管理】 株式会社Knot
【実証実験設計/実施担当】株式会社構造計画研究所
■実験の様子
バスターミナル:
当実験ではデータ配信場所として主に二俣川駅南口バスターミナルを使用した。二俣川駅南口バスターミナルでのバス車両へのデータ受渡しに失敗したケースが数回あったが、その場合は鶴ヶ峰駅バスターミナルへ先回りして鶴ヶ峰駅バスターミナルにて同様の条件でバス車両へのデータ配信を行った。このような移動を伴う可能性を当初から想定していたため、バスターミナルへ配置するサーバ機器は据付型ではなく可搬型とした。(小型PC + Wi-Fiアクセスポイント + AC100V出力小型バッテリー。)バスターミナルではこのサーバ機器とバス車両への中継用タブレット端末をバス停車場所から約13mの位置に手持ちで待機し、バス車両停車時に自動的にバス車両のタブレット端末へデータの受け渡しが行われるようにした。
※写真地図提供:Google
※写真地図提供:Google
バス車両:
バス車両には以下の機器一式をPC用ソフトカバーに収容し、運転席とフロントガラス間にスポンジクッションで圧迫固定した。
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E-INKタブレット(1台):バスターミナルおよびバス停とスマホdeリレー通信を行うアプリをインストールした端末
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Androidスマートフォン(2台):走行ログ(1秒毎の位置情報・速度履歴)を記録する端末
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モバイルバッテリー(3台):(E-INKタブレット1台とスマートフォン2台にそれぞれ接続)
バス停:
相鉄バス旭1路線を走行するバス車両から、左近山第3、左近山第5、左近山第6の3つのバス停(いずれも鶴ヶ峰→二俣川方向:のりばA)に対して、スマホdeリレー通信によるバス車両端末からの情報配信を行った。いずれのバス停においても、バス停什器に防水・防塵BOXを取付け、スマホdeリレー通信を行うアプリをインストールしたE-INKタブレット端末ならびにバッテリーによる給電設備を収容した。なおバス車両との通信機会は、各バス停ともに1回の往復で往路通過時(二俣川→鶴ヶ峰方向)と復路停車時(鶴ヶ峰→二俣川方向)の2回となるようにした。各バス停の様子は以下の通り。
左近山第3(のりばA)
<往路(二俣川→鶴ヶ峰方向)に対する環境>
のりばAの手前約70mから見通し確保。バス車両との最接近時距離は約20m。のりばAの手前約75m地点に信号付き交差点の停車位置が存在。のりばAの約30前方にのりばBが存在。
<復路(鶴ヶ峰→二俣川方向)に対する環境>
のりばAの手前約50mから見通し確保。バス車両搭載端末との最接近時距離は約4m。のりばAの前方約20m地点に信号付き交差点のバス用停車位置が存在しここで一旦信号待ちすることが多い。防水・防塵BOXはバス停最前列の柱に取付け。
左近山第5(のりばA)
※写真地図提供:Google
<往路(二俣川→鶴ヶ峰方向)に対する環境>
のりばAの手前約100mから見通し確保。バス車両搭載端末との最接近時距離は約7m。見通しが確保できる地点に信号無し交差点が存在。のりばAの約70前方にのりばBが存在。
<復路(鶴ヶ峰→二俣川方向)に対する環境>
のりばAの手前約100mから見通し確保。バス車両搭載端末との最接近時距離は約3m。のりばAの手前約22m地点に信号無し交差点が存在。防水・防塵BOXはバス停中央寄りの柱に取付け。
左近山第6(のりばA)
※写真地図提供:Google
<往路(二俣川→鶴ヶ峰方向)に対する環境>
のりばAの手前方向に対しては金網及び樹木の存在により見通しが悪い状態。バス車両搭載端末との最接近時距離は約12m。のりばAの手前約75m地点にのりばBが存在。のりばAの前方約35m地点に信号無し交差点が存在。
<復路(鶴ヶ峰→二俣川方向)に対する環境>
のりばAの手前約50mから見通しが確保された状態。バス車両搭載端末との最接近時距離は約6m。のりばAの手前約35m地点に信号無し交差点が存在。のりばAの前方方向に対しては金網及び樹木の存在により見通しが悪い状態。バス停自体が車道から入り込んだ広い敷地となっておりバスがバス停に対して直角方向に停車する(停車時間も他のバス停に比べ比較的長い。)防水・防塵BOXはバス停中央寄りの柱に取付け。
バッテリーによる給電設備
※地図提供:Google
ソナエRINGでは、日常的に給電が困難なバス停へのアドオンや発災等による停電時の運用を想定している。当実験においては消費電力面からみたシステム運用の持続可能性の検証を行うために、各バス停に配備したE-INKタブレット端末へは実験期間中を通してオングリッド給電は一切行わずバッテリーによるオフグリッド給電のみ行った。左近山第3バス停および左近山第6バス停では、市販の大容量バッテリーからインバーターを介してAC100Vコンセント経由でタブレット端末に給電する方式を試した。左近山第5バス停では、容量10400mAh(37Wh)の市販の小型モバイルバッテリーからUSBケーブルでタブレット端末に給電する方式を試した。
左近山第3バス停および左近山第6バス停設置機器
左近山第5バス停設置機器
■実験結果
データ配信成功率:
実験期間中、4往復 x 5日間 = 計20回のデータ配信を行った。20回の配信における配信データサイズの内訳は0.5KBが4回、5KBが4回、25KBが3回、50KBが4回、120KBが2回、210KBが1回、300KBが2回であった。データ配信先のバス停は3ヶ所用意していたのでバス停へのデータ配信機会としては合計60回となる。(ただしうち3機会(0.5KB x 左近山第3バス停、300KB x 左近山第5バス停、300KB x 左近山第6バス停)で実験運用上のミスに起因するデータ配信失敗があったため有効回数は57回となる。)
データ配信の成功可否を左右するものとして「配信データの大きさ」と「バス車両-バス停間の通信が連続維持できる時間の長さ」の2つが挙げられる。後者はさらに「バス車両-バス停間の見通し環境」と「バス車両の移動速度」の影響を大きく受ける。
「バス車両-バス停間の見通し環境」については、実験の様子に書いた通り、第6バス停の手前方向以外は50m以上の見通しが立つ環境でありバス停間にそれほど大きな差異は認められない。さらに第6バス停の手前方向についても完全な壁面で遮られているわけでは無く均等的に隙間のある金網と樹木によって遮られた状態であったので、実際には見通しが立たないことでそれほど大きな影響は受けなかった。
「バス車両の移動速度」については、バス停による停車以外に赤信号による停車と渋滞による停車の有り無しによって大きく変化した。バス停用タブレット端末を設置したのりばAから見て手前車線を走行するバス車両とのすれ違い(バス停A停車)か反対車線を走行するバス車両とのすれ違い(バス停B停車)か、通信可能範囲内での信号待ちもしくは渋滞による停車が有るか無いか、の2点で特徴が分かれたためこれらを軸にパターン分けを行うこととした。バス車両-バス停のすれ違い機会に対してそのすれ違いパターンを以下の4通りに分類し、各パターンに対するデータ配信成功確率をデータサイズ毎に算出した結果を以下に示す。
表中、データ配信機会が無かったケースは結果を「-」で表した。データ配信成功確率が100%であったケースは青色で塗りつぶし、逆にデータ配信成功確率が0%であったケースは赤色で塗りつぶした。データ配信成功確率が0%と100%の中間(つまり成功したり失敗したり)であったケースは黄色で塗りつぶした。データ配信に失敗したケースの失敗要因を調べたところ、以下の4つであることが分かった。
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バス停端末の検出遅れによるBluetooth接続失敗
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データ配信未完了(通信が切れるまでの間に全てのデータを配信しきれなかった)
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Android固有のBluetooth接続エラー(エラーコード133:同一端末と接続・切断を頻繁に繰り返すと発生しやすい)
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Android固有のBluetooth再接続エラー(エラーコード257:電波環境の弱い状態で接続を試みて失敗した際に発生しやすい)
まず、表中赤色で塗りつぶした箇所の失敗ケースの要因については、1件を除いた残り全てが要因2によるものであった。(1件は要因3。)また、すれ違いパターン①での50KB配信時にも要因2による失敗があった。このことから、対向車線を走行するバス車両からのデータ配信はデータサイズ50KBが限界であり、50KBを超えると失敗確率が上がり210KBを超えるとほぼ失敗するということが分かった。一方で、手前車線を走行するバス車両からのデータ配信は少なくとも300KBまでは問題ないということが分かった。
次に、すれ違いパターン②での50KB配信時に要因1による失敗があった。これはデータサイズに依存しない要因である。事象としてのバス停端末検出遅れは偶発的に起こり得る事象であり防ぐことは困難であるが、手前車線走行時には1度も発生していなかったことから往復で失敗することはないと考えてよいと言うことができる。
最後に、すれ違いパターン②での0.5KB配信時およびすれ違いパターン④での300KB配信時に要因3・要因4による失敗があった。これは通信環境による影響ではなくソフトウェア的な問題(Android端末固有の問題)であり、将来的なOSアップデートで問題が解消する可能性や、iOS端末などAndroidではない端末をプラットフォームとして使うことや、あるいはBluetooth再起動を定期的に実施するなどの回避策が考えられる。
以上から、Android固有のソフトウェア的な問題への対策はまだ検討の余地が残るものの、街中で運行する公共バスという都市アセットにスマホdeリレーをアドオンした場合、ニュースや簡単な広告程度の情報(圧縮して300KBに収まる情報)であれば、往復運行を前提に各バス停の片側の乗り場へ機能配置することでまち情報インフラとしての役割を果たすことが可能であることが確認できた。このサイズであれば10~20秒程度の音声データなども配信することは可能と言える。また、往復運行を前提としない場合は、50KB以下の情報量であれば100%に近い高確率でデータ配信が可能であることも確認できた。一方で、各バス停の2つの乗り場(のりばAとのりばB)は概ね70m以内の距離に配置されていることが多いため、両側の乗り場へ機能配置してしまうと走行するバス車両はその区間でどちらか一方にしか接続・配信する時間が確保できなくなる可能性が高いということも分かった。往復でのデータ配信成功確率をまとめたものを以下に示す。
※失敗要因は要因3
また、参考までに5KBデータ配信時と210KBデータ配信時におけるバス車両速度・位置と通信状態の時刻歴変化の様子を以下に示す。
※地図提供:Microsoft
※地図提供:Microsoft
電力消費量:
左近山第3バス停および左近山第6バス停に配備した大容量バッテリーに関しては、給電回路に問題があり実験期間中に給電できない状態となってしまったため途中からモバイルバッテリーに切り替えて給電を継続した。一方で最初からモバイルバッテリーによる給電のみで運用した左近山第5バス停では、実験期間を通してバッテリー残量を使い切ることなく安定して給電し続けられたことが確認できた。左近山第5バス停で使用したモバイルバッテリーの容量およびその稼働時間と残量インジケータ目盛(満充電で4目盛分)の日時変化を以下に示す。
バッテリー容量: 37Wh(10400mAh)
稼働時間 : 128時間(2022/3/6 13:00 ~ 2022/3/11 17:00)
モバイルバッテリーは128時間経過した3月11日17:00時点でバッテリー残量インジケーターの目盛が4個中1個のみ点灯していた。つまりバッテリー残量は1/4未満であったと言うことができ、E-Inkタブレットは128時間でモバイルバッテリー容量の3/4に相当するおおよそ27.75Wh(7800mAh)~37Wh(10400mAh)の電力量を消費したことが分かる。
このことからバス停用端末の消費電力量としては、1時間あたり約0.22Wh(59.459mAh)~0.29Wh(78.378mAh)、24時間あたり約5.28Wh(1427.016mAh)~6.96Wh(1881.072mAh)と言えることが分かった。
1日の日照時間を3~6時間と仮定すると、小型のソーラー発電装置でも1日に7Wh充電することは十分に現実的であることを考えると、今回の結果から、小型のソーラー発電装置や風力発電装置との組み合わせによって電力網に依存しないまち情報インフラが運用できる可能性が十分にあることが分かった。
■まとめと今後の展望
株式会社NEXT VISION様のもと、相鉄ホールディングス株式会社様、相鉄バス株式会社様の協力を得て、営業運行中の公共バス設備(バスターミナル、バス車両、バス停)にスマホdeリレー機能をアドオンした際に、「まち情報インフラ」としてどの程度の情報共有性能が発揮できるのかについて検証実験を行った。
具体的には、実際に街中で営業稼働中のバスターミナル・バス車両・バス停にスマホdeリレー通信を行うアプリをインストールしたタブレット端末を設置し、バスターミナルに用意したサーバ上の配信データをバス車両を介したすれ違い通信によって運行路線上の各バス停へ配信するスマホdeリレー情報配信基盤を構築。配信データとして文字と写真で構成したサイズの異なる複数のHTMLデータ(0.5KB~300KB)を用意し、どのくらいの情報量がどのくらいの確率で共有可能であるかを検証した。また、電力供給の見込めないバス停への配備も含めた運用シナリオが現実的かどうかを探るため、バス停配置端末の電力消費量についても検証した。
実験の結果、Android固有のソフトウェア的な問題への対策はまだ検討の余地が残るものの、街中で運行する公共バスという都市アセットにスマホdeリレーをアドオンした場合、ニュースや簡単な広告程度の情報(圧縮して300KBに収まる情報)であれば、往復運行を前提に各バス停の片側の乗り場へ機能配置することでまち情報インフラとしての役割を果たすことが可能であることが確認できた。このサイズであれば10~20秒程度の音声データなども配信することは可能と言える。また、往復運行を前提としない場合は、50KB以下の情報量であれば100%に近い高確率でデータ配信が可能であることも確認できた。一方で、各バス停の2つの乗り場(のりばAとのりばB)は概ね70m以内の距離に配置されていることが多いため、両側の乗り場へ機能配置してしまうと走行するバス車両はその区間でどちらか一方にしか接続・配信する時間が確保できなくなる可能性が高いということも分かった。バス停用端末の電力消費に関しては、5日間(実質128時間)の連続稼働に対して一般的な市販のモバイルバッテリー(容量10400mAh)で事足りる消費量であった。具体的には1時間あたり約0.22Wh(59.459mAh)~0.29Wh(78.378mAh)、24時間あたり約5.28Wh(1427.016mAh)~6.96Wh (1881.072mAh)であり、小型のソーラー発電装置や風力発電装置との組み合わせによって電力供給網に依存しないオフグリッドなまち情報インフラが運用できる可能性が十分にあることが分かった。
今回は公共バスという都市アセットにスマホdeリレー機能をアドオンした際の情報共有性能の検証を行ったが、スマホdeリレー機能のアドオン効果が見込めるその他の様々な都市アセットに関しても同様の性能検証を行い、まち情報インフラ「ソナエRING」の普及と展開を進めていきたい。
-以上-
【参考】実験で使用した配信データ(0.5KB、5KB、25KB、50KB、120KB、210KB、300KB)